スタッフブログ

2025.05.12

人参で行水ができたなら

あっという間に3月→4月→5月となり、長いと思っていた健康診断キャンペーンも、まもなく終了となります。

今年も、昨年と同様、健康診断がきっかけとなり病気が発見され、早期に手術を行うことができたため一命を取り留めたという症例が少なくありませんでした。(それはまた別の回で詳しくレポートしたいと思います。)

毎回同じ話をしているので耳にタコができるかもしれませんが、また改めて同じお話をすると、

春の時期に健康診断キャンペーンを行っている病院さんは多いと思いますが、健康診断を受ける上で、もしくは受けた後で大切なことは、〝どういう検査をして、どこまで把握できたか〟ということをしっかり捉えることです。

 

血液検査だけ行って、果たして〝健康〟の烙印を押していいのか?

・少ない項目だけ見て〝健康だ〟と安心していいのか?

 

正しく認識しなければ、むしろ健康診断を行ったことにより油断が生じ、病気の発見を遅らせる危険性も少なくありません。

実際にあった例としては(他院で聞いたお話も含め患者さんからの証言を元に挙げています)、

■安価で健康診断をしてくれるというので血液検査を依頼したが、全身状態を把握するには全然足りない項目数だったため、病気の見落としが発生してしまった。

■十分な健康診断を行っていたけれど、健康診断からまもなく突発性の病気になった。→健康診断で異常がなかったため、一時的な不調かと油断してしまった。(:健康診断後に急な病気に陥ることがあるため、健康診断の時点で異常がなくても大きな病気にかかることはありえます。=今までに多かった例としては、特発性免疫介在性溶血性貧血等が挙げられます。 )

■健康診断の結果を「連続」ではなく、「一点」で見ていたために将来のリスクを見逃し病気に進行した。(健康診断は、行った時点での身体の状態を見ることも大切ですが、同じくらい大切なのは、その子の数値がどう推移しているのか連続で評価することです。以前のブログでもお伝えしたことがありますが、基準値の範囲内に収まっていることだけが大切なのではありません。〝その子にとっての基準値〟というものがあり、それが一般的な基準値を少し逸脱することもあり得るのです。 =基準値の設定方法は、健康なものの数値を集め、上下数%を外した値で設定されるため、その切り捨てられた値にその子の正常値が含まれる可能性もあり得るのです。)基準値の範囲ではあるけれど、いつも基準値の下限ギリギリなのに今回はいきなり上限になった(逆も然り)など、変化に気づければ、将来病気につながる可能性のある食生活や生活習慣の改善を見直す必要性にいち早く気づけるかもしれません。ここ数年当院の健康診断のノベルティをクリアファイルにしている理由も、健康診断の結果をファイリングして経過を追って見られるようにという狙いがあるためです。

今年も、病気が発見された子の中には、血液検査だけで判断をしていたら見逃されていた可能性がとても高い病気がありました。 その中でも毎年必ずと言って良いほど発見されるものが膀胱結石や胆嚢の異常(胆石症)、脾臓腫瘍などです。

これらの病気は末期にならないと血液検査で気づくことができません。このような病気をいち早く発見するために春の健康診断の予約特典として膀胱(簡易)エコーを無料でつけているのです。(基本的に無料範囲が膀胱部分のみなのですが、ついでに院長はそのほかの部分も見てくれています。)せっかくなら血液検査だけでなく、是非ともエコー検査も一緒に行ってほしい・・という思いからつけているイチオシの特典でした。

早期に発見できれば、手術までの時間に比較的余裕ができるため、心の準備や手術日程も調整しやすくご家族の方も心を落ち着けて手術に送り出すことができるはずです。症例によっては手術までの間、投薬を行ったり栄養面でも身体の状態を整える期間に充てることができます。

 

このように、年1〜2回の健康診断は、獣医療に携わるものとしてとてもお勧めできるものではあるのですが、どこまでの熱量で推奨して良いのかという加減にはいつも悩みをもっています。

 

ここからは私一個人の胸の内なので、病院のブログとしてこの場で曝け出して良いのかとも思うのですが、

どんなに良いものであっても、過干渉に思われてしまったり正しく伝えられなければ、お勧めすることで逆に嫌厭されてしまうこともあるだろうな・・という危惧が常に付き纏っています。このため控えめにしか伝えられず、「たとえ煙たがられたとしても、もう少し早く検査や処置してもらえるよう働きかけていたら助かったのかな。。」と悔しい気持ちになることもあるのです。

 

それには健康診断だけでなく、予防関連(ワクチン・寄生虫予防薬、避妊去勢手術)、処方食、薬の飲み方(特に抗生剤・抗真菌剤)なども含まれます。

現場にいる者としては、ワクチン接種をしていなかったために感染症にかかり長期入院・治療を余儀なくされた症例や、寄生虫の予防薬を数回飲み忘れていたために感染してしまい、長いスパンで治療をする結果になってしまった例を実際身近で見ているため、同じ状態になって欲しくないという思いから、ついつい強く言いたくなってしまうところもあるのです。

 

限られた診察時間の中での説明になるので、正しく伝わらないこともあるかもしれませんが、動物病院含め、各フードやお薬・ワクチンメーカーさんのベースにあるのは、『動物たちや飼い主さんたちが少しでも長く笑顔で幸せに一緒にいることができますように』という“想い”です。(少なくとも、当院に来てくださっているメーカーさんは我々の意見や悩みを聞いて改善に向け動いてくれようという姿勢でいてくださっています。 ←飼い主様の声や我々の声をメモして社内で議題に上がるようにしてくれたり、疑問について早いレスポンスで真摯に回答してくださいます。) 全ての人がそうとは言い切れないのかもしれませんが、動物業界にいる人たちは少なからずほとんどが動物を愛する会の会員のはずです。

当院にいらっしゃる患者さんご家族は、本当に動物のことを我が子のように大切に思っている方達ばかりですので、他者に言われなくてももちろん1番にその子のことを考えていることと思います。しかし、時間的にも労力的にも経済的にもそれぞれの事情を考えなくてはいけないため、時に一番に考えてあげられないという事もきっとあるだろうな・・という気持ちも大いにわかります。(自分の実の子供でさえ、一番に考えられない時もあるのですから。)我々の助言が逆に飼い主様の負担になるような、独りよがりにならないようにしなければならない一方、最善の手を尽くしてあげたいというもどかしさがあります。

 

私たちはあくまでその子のことを想うご家族の〝お手伝い〟しかできません。動物たちの最後に立ち会ったとき、『病院の皆さんに尽くしてもらったおかげで』と言ってくださる方は多いですが、我々がどんなに想っていても、ご家族の方がその子のことを考えこの場所に連れてきてもらわなければ、どれだけ最高の治療法ができる体制があったとしても、それをしてあげることはできません。結局のところ、最高の治療の引き金を引けるのは飼い主様の決断あってこそなのです。

獣医療の限界、その子の生命力の限界、環境など様々な要因の限界・・

力が及ばず救えない命もありますが、どうか少しでも長く・幸せに飼い主様と動物たちが一緒に笑い合って過ごせる日々が続くよう、我々の出せる知識と経験を提供していきたいと思いますので、少しばかりうるさく感じてしまうことも受け止めてもらえたらなと思います。